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なぜ海は光るのか|バイオルミネッセンスが生む青い奇跡

夜の波が崩れる瞬間に青く光るバイオルミネッセンス現象

あの夜の海は、どう考えても反則でした。

……と、言いたいところですが、
私はその場にいません。
自宅でコーヒーを飲みながら、画面越しに眺めていただけです。

それでも、波が動くたびに青く光るあの景色は、
まるで星空を海に敷き詰めたようで、思わず見入ってしまいます。

正直、そのときはこう思っていました。

「これはもう、魔法だな」と。

誰かがスイッチを押しているに違いない。
──はい、違いました。

あの光は、自然が用意した“仕組み”の産物。
夜光虫が起こす化学反応が生み出した、れっきとした現象です。

つまり私は、
壮大な自然を前にして、ひとりでファンタジー設定を盛っていただけでした。

今回は、その「魔法の正体」を、
少し理系っぽくのぞいてみたいと思います。

目次

海の中で起きている、小さな実験

お祭りやライブ会場で、
パキッと折ると光る棒を見たことがあると思います。

中の液体が混ざった瞬間、
青や緑に光りはじめる、あの棒です。

実は、夜光虫の体の中で起きていることは、
あれととてもよく似ています。

暗闇で光る化学発光スティックを手に持つ様子
中の液体が混ざることで発光する、化学発光スティック。

夜光虫の体の中には、
光のもとになる物質と、
反応を助ける役の物質が入っています。

そこに酸素が加わると、
三つがそろって、小さな化学反応が始まります。

すると、一瞬だけエネルギーが生まれ、
それが青い光となって外に出てきます。

つまり、夜光虫の体の中では、
目に見えないほど小さな「光る棒」が、
何度も何度も折られているような状態なのです。

違うのは、
夜光虫はそれを使い切らず、
生きているかぎり、何度でも光を作り直せること。

だから、あの海は、
波が動くたびに、何度でも輝くのでした。

なぜ“青”だったのか──色の秘密

ところで、ひとつ不思議に思いませんか。

夜光虫の光は、
なぜ決まって“青”なのでしょう。

実は、この答えは、
私たちがよく行く「水族館」にあります。

水族館の水槽は、
少し青っぽい光で照らされていることが多いですよね。

あれは、雰囲気づくりのためだけではありません。

青い照明に照らされた水族館の大型水槽を泳ぐ魚たち
青い照明によって、魚やサンゴが美しく見える水族館の水槽。

青い光は、水の中でも遠くまで届きやすい。
だから、魚やサンゴがいちばんきれいに見えるのです。

赤や黄色の光は、
水の中ではすぐに弱くなってしまいます。

つまり、水の中では、
青がいちばん“目立つ色”なのです。

夜光虫も、同じことをしています。

できるだけ遠くに光を届けるために、
最初から「青」を選んで光っている。

偶然きれいだから青いのではなく、
生き残るために選ばれた色だった。

そう考えると、
あのやさしい青は、
自然がつくった、いちばん合理的なデザインなのかもしれません。

夜光虫は、光るスイッチを持っている

夜光虫は、
いつも光っているわけではありません。

実は、自分の体の中に、
「光るか・光らないか」を切り替える
小さなスイッチを持っています。

そのスイッチが入るきっかけは、とてもシンプルです。

波に揺られる。
魚がぶつかる。
人が水に触れる。

──つまり、「刺激」を感じたとき。

その瞬間、
夜光虫の体の中では、
光の反応が一気に始まります。

波が消波ブロックに当たって青く光る夜のバイオルミネッセンス
波の刺激によって、沿岸部で夜光虫が青く光る様子。

まるで、
誰かに肩をたたかれて、
思わず「えっ?」と振り向くように。

びっくりした反応が、
そのまま“光”になっているのです。

つまり、あの幻想的な輝きは、
夜光虫の「とっさの防御反応」。

きれいだけれど、
中身はとても必死。

そう思うと、
あの光の見え方が、少し変わってきます。

なぜ、この場所では光ったほうが得だったのか

夜の海は、ほとんど闇の世界です。
光のない場所では、「見えないこと」そのものが危険になります。

夜光虫は、とても小さな生きものです。
力では、大きな魚に勝てません。

そこで彼らは、
危険を感じた瞬間、あえて光ることを選びました。

自然の光に、相手はひるみ、動きを止めます。

突然光って相手をひるませる様子は、
どこか某格闘漫画の“まぶしい技”を思わせます。

そのすきに、逃げる。

さらに、その光は、
もっと大きな存在を呼び寄せ、敵を遠ざけます。

夜の海では、青い光がよく届きます。
だから、この作戦はとても効果的でした。

夜の海で集魚灯を灯して操業する漁船の光景
夜の海に光を灯して魚を集める集魚灯漁の風景
(出典:Wikimedia Commons/撮影:Fiszi37/CC BY 4.0)

――実は、人間も同じことをしています。

夜の漁では、集魚灯を使って、
暗い海に強い光を灯します。
すると、その周りに魚が集まってきます。

光が、「ここに何かある」と知らせる目印になるのです。

夜光虫の発光も、
それとよく似た仕組みでした。

この場所では、
隠れるより、あえて目立つほうが生き残れた。

夜光虫は、
そんな環境に合った生き方を選んできたのです。

魔法じゃなかったけど、やっぱりきれい

ここまで見てきたように、
夜光虫の光には、ちゃんと理由がありました。

体の中の反応。
青が選ばれた理由。
刺激に反応するスイッチ。
夜の海に合った、生き残りの戦略。

どれも、魔法ではなく、自然のしくみです。

調べているうちに、
私はすっかり“専門家気分”になっていました。

夜の浜辺で淡く青く光る波打ち際の風景
理由を知ってから見ても、やっぱりきれいだと感じる夜光虫の海

もちろん、海には行っていません。
パスポートも、引き出しの奥で眠ったままです。

それでも――
あの光が、つまらなくなったかというと、
そんなことはありません。

むしろ、知れば知るほど、
あの景色は、少しだけ深く見えてきます。

今日も私は、
画面越しにその海を眺めながら、
「やっぱり、きれいだな」と思っています。

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