本物のオーロラを見たことはありません。
なのに動画を見ていると、つい腕を組んで「今日の揺れはキレがいいな」なんて、
通ぶったことを言ってしまうんです。
寒さも感じていないのに、「この光、けっこう冷たそう」なんて言ってみたりして。
体験していないのに想像だけは堂々としているあたり、自分でもちょっと図々しい気がします。
でも、実際に見ていなくても、オーロラはただの景色じゃありません。
オーロラの正体を知るには、宇宙を見上げる前に、わたしたちの身近にある“光の仕組み”を覗いてみる
必要があります。光っているものは、ただ光っているわけではないのです。
家の中でも、学校でも、オフィスでも──
私たちは毎日その仕組みの一部を目にしているのです。
今夜は、その謎をこっそり旅してみましょう。
空に浮かぶ“巨大な蛍光灯”
天井からぶら下がる蛍光灯は、電気そのものが光っているわけではありません。
中に入っている ガスが光っているだけ。
電気を受け取ったガスが、余ったエネルギーを 光として返している のです。

実は、オーロラもこれと同じ仕組みです。
太陽からやって来た粒子が、空気(酸素や窒素)にエネルギーを渡し、
その空気が 光として返している──ただそれだけの現象。
つまり私たちは、空気が光っている夜空 を見上げているのです。
空を調理する、光のキッチン
ただし、蛍光灯と違って、オーロラには 色の違い があります。
その理由を知るには、もう少し 説明が必要です。
光の色の違いを決めているのは、どの空気を、どんな加減で光らせたか。
色ごとに光っている“材料”は少しずつ違います。
緑や赤を作るのは酸素、紫や青みを帯びる光は窒素。
私たちが吸っている空気の中にある、身近な成分が色の正体なのです。
例えるならオーロラの色は、空の「料理」のようなものです。
材料になるのは、空気の中にある 酸素や窒素。
そこに太陽から届いた粒子が、火加減(エネルギー)を加える役目をします。

同じ酸素でも、弱火で調理されれば 緑色 に、強火になれば 赤色 に。
材料が窒素なら、紫寄りの色になることも。
つまり、オーロラはどの材料に、どんな火加減で仕上げられたか によって色が決まるわけです。
……料理が苦手でも、なんとなく想像できますよね。
緑色が多い理由
このようにオーロラの色を作っているのは、空に含まれる 酸素や窒素です。
意外かもしれませんが、光っているのは太陽光ではなく、空気そのもの。
太陽から飛んで来た粒子が空気にぶつかり、余ったエネルギーを光として返すことで、色が生まれています。
では、なぜ緑が多く、赤や紫が少ないのでしょうか?
実は 緑を出す酸素は、光になるまでの時間がとても短い ためです。
太陽の粒子と出会うと、すぐ光に変わり、夜空に広がります。

一方、赤を出す酸素や紫を作る窒素は、光になるまでに時間がかかるタイプ。
ゆっくりしているあいだに、光として完成する前に弱まったり、消えてしまうことがあります。
そのため、赤や紫は“たまにしか現れないレアな色”になるわけです。
例えるなら、緑を出す酸素は、スタートの速い短距離ランナー。
合図が鳴った瞬間に飛び出して、すぐに目立ちます。
だから、夜空でも 緑が一番たくさん見える のです。
一方、赤や紫を作る酸素や窒素は、スタートがゆっくりなランナー。
準備に時間をかけているうちに、レースが終わってしまったり、他の選手に埋もれてしまいます。
それが、赤や紫が“レア色”になる理由です。
北と南にオーロラが集まる理由
オーロラがどこでも見られるわけではなく、北極や南極付近の地域で特によく現れるのは、地球のまわりにある
磁場(じば) が関係しています。
地球は、大きな磁石のように 見えない力の道(磁場) を持っています。
太陽から飛んで来た粒子は、この磁場に引き寄せられ、北極と南極の方向へ集中して流れ込みます。

そのため、光る材料(酸素や窒素)が反応する場所も、自然と 北極圏・南極圏の空に集中する のです。
これが、オーロラが極地に多い理由です。
オーロラはなぜゆらめく?
オーロラは、ただ空に浮いている光ではありません。
まるで生き物のように揺れたり、流れたり、形を変えたりします。
その動きは、太陽から届いた粒子の勢いと、地球の磁場の流れによって生まれています。

太陽の粒子は “風” のように吹きつづけている
太陽は、常に目に見えない粒子の風を宇宙に向けて吹き出しています。
これを 太陽風(たいようふう) と呼びます。
その風が強まったり弱まったりすると、ぶつかった空気の光り方も変わり、オーロラの形や動きも変化する のです。
磁場の流れに沿って “光の川” ができる
地球は磁場によって、粒子が流れ込む方向が決まっています。
その流れに沿って粒子が移動すると、まるで空に描かれた光の川のようにオーロラが伸びたり揺れたりします。
・カーテンのように波打つ
・光が流れるように走る
・突然強く光る
こうした変化は、磁場の中を粒子が移動している証拠なのです。
日本でオーロラが見える可能性
オーロラは北極や南極に集中して現れますが、日本でも見られる可能性はあります。
ただし、それは非常にまれな条件が揃った場合だけです。
日本がある中緯度地域は、太陽から届く粒子が流れ込む 磁場の中心ルートから外れた場所 に位置しています。
そのため、通常は日本まで粒子が届かず、オーロラはほとんど現れません。

しかし、太陽活動が強まり、大量の粒子が地球に押し寄せたとき、磁場のルートが一時的に広がり、普段は流れ込まない地域にまで粒子が届くことがあります。
そのときだけ、日本でもオーロラが観測されることがあるのです。
これまで実際に観測されたことも
過去には、北海道や東北の一部でオーロラが観測された記録があります。
その多くは、太陽が大規模な活動を起こした時期と一致しています。
オーロラは危険?──見えない影響
夜空にゆらめく光のカーテン。
その美しさとは裏腹に、オーロラの正体である 太陽からの粒子 は、ときに地球の暮らしに影響を与えることがあります。
それは、人間の目に見える色ではなく、通信や電気に影響する“見えないオーロラ” と言えるものです。

通信やGPSが乱れることがある
太陽から大量の粒子が降り注ぐと、地球の大気や磁場が強く反応し、電波や通信に影響が出ることがあります。
・GPSの精度が落ちる
・短波通信がつながりにくくなる
・飛行機の通信ルートが変更される
こうした影響は、オーロラが見えていなくても起きるため、光のショーが見えない地域にも関係する現象なのです。
電気を止めるわけではないけど…
心配する必要はありません。
普段の生活が止まるほどの影響は、ほとんどありません。
しかし、太陽が大きく荒れた年には、衛星や通信機器に注意が必要になることがあるのです。
巡り合わせの自然現象
つまり、オーロラは美しい“光の表情” と 見えない“電気の表情”のどちらも持っている現象。
その影響が少しだけ人間の世界に届くとき、日本でもオーロラが見られるチャンスがやってくるのです。
おわりに──光を見上げる旅
オーロラは、ただ美しいだけの光ではありません。
太陽から届く小さな粒子が、地球の空気と出会って光に変わる、宇宙と地球が一瞬だけ握手する瞬間です。

緑が多いのは、すぐに光る酸素が反応しているから。
赤や紫がレアなのは、時間をかけて光る性格だから。
そして、それらが北や南に集まるのは、地球の磁場に導かれているから。
仕組みを知っても、美しさが減るわけではありません。
たったひとつの光には、宇宙の力と地球の個性が重なって いるからです。
そして、まれに「音が聞こえた」と語る人もいます。
科学的には説明しきれない小さな謎──それもまた、オーロラという旅の魅力なのかもしれません。
たとえ本物を見たことがなくても、「今日は緑が速いな」なんて通ぶってもいい。
だってこの旅は、行ったかどうかより、想像して楽しむことが目的 なのですから。


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