カナダ西部、アルバータ州。
この地には、数千万年前の記憶を静かに抱きしめるように、赤茶けた大地が広がっています。
州立恐竜公園(Dinosaur Provincial Park)――
その名の通り、かつて恐竜たちが暮らしていた谷が、いまも地層の中に息づく世界遺産です。
風と雨が大地を削り取るたび、地中に眠っていた骨や歯が少しずつ顔をのぞかせます。
それはまるで、時の流れがめくる大地のアルバム。
そこに刻まれた化石のひとつひとつが、太古の生きものたちの物語を語り始めます。
今回の旅では、この“恐竜の谷”を想像で歩きながら、
大地に残された生命の記憶をたどっていきましょう。
バッドランドの大地──恐竜が生きた舞台
カナダ西部のアルバータ州には、活気ある都市やロッキー山脈の雄大な景観など、多彩な顔があります。
その一角に、まるで地球が古代の記憶をむき出しにしたような不思議な風景が広がっているのを
ご存じでしょうか。それが「アルバータ州立恐竜公園」。

赤茶けた断崖と複雑に削り取られた谷が連なり、乾いた大地の下には数千万年前の恐竜の化石が眠っています。
“バッドランド”と呼ばれるこの土地は、人間の生活には不向きでした。
けれどもその乾いた環境こそが、恐竜の記憶を今日まで残してきたのです。
地中に眠っていた恐竜の化石
恐竜の化石が初めて発見されたとき、人々はそれを「巨人の骨」だと思ったといいます。
けれど、アルバータ州立恐竜公園の大地に眠っていたのは、まさに“地球の記憶そのもの”でした。
この公園では、ハドロサウルス(カモノハシ竜)や角竜、肉食恐竜の骨格など、
150種を超える恐竜の化石が見つかっています。
その多くは、かつて川が流れ、森が広がっていた頃の堆積層に埋もれていたもの。
雨季の増水や土砂崩れで埋もれた命が、やがて化石として大地に刻まれました。

興味深いのは、ここで見つかる化石の多くが“群れ”のまま発見されることです。
それは、恐竜たちが家族や仲間と共に生きていた証でもあります。
州立恐竜公園の研究からわかったこと
州立恐竜公園で見つかる化石は、ただの「骨の集まり」ではありません。
よく見ると、そこには 生活の気配 が残っています。
1. 恐竜は「群れ」で行動していた
公園内では、同じ種類の恐竜の骨がまとまって見つかることが非常に多いです。
これは偶然ではなく、恐竜たちが家族・仲間と共に暮らしていた証拠と考えられています。
2. 恐竜には「世代」があった
骨の分析から、幼体・成体・老成体が共に発見されています。
つまり、恐竜は寿命と成長の段階を持ち、「社会」を形成していたということ。
「ただ巨大な生き物」ではなく、生き方や世代の営みを持った存在だと見えてきます。

3. 彼らの暮らしていた環境は“豊かな川のそば”だった
地層解析により、公園のある土地は かつて川と湿地の広がる平原 だったことがわかっています。
・雨季→洪水で流木や動物が押し流される
・それらが堆積して埋もれ、のちに化石になる
つまり、化石は「突然の自然の出来事に巻き込まれた“時間の瞬間”」が残ったものということ。
4. 肉食恐竜と草食恐竜の「距離感」も見えてきた
肉食恐竜の化石は数が少なく、広大な草食恐竜の群れの中に点在 するように見つかります。
これは生態系のバランスを示しています。

・草食恐竜の群れ → 基盤
・肉食恐竜 → 生態系の頂点であり、数は少ない
現代のサバンナのような構造とよく似ています。
痕跡が語る生活
化石というと、立派な骨格標本を思い浮かべることが多いかもしれません。
しかし、恐竜たちが残したのは、骨だけではありませんでした。
地面に残された 足跡
住処と思われる 巣の跡
そして 卵の殻──
それらはまるで、恐竜たちが生きていた“日々の記憶”をそっと書き残した、大地のメモのようなものです。
例えば、この公園からは 同じ種類の恐竜が、何十体も一か所に集まって発見される 場所があります。
これは「ボーンベッド」と呼ばれる地点で、まるで群れが いっしょに旅をし、暮らしていた ことを
示しています。さらに、骨の大きさを調べると、小さな子どもの骨、大人の骨、お年寄りの骨が 並んで
いることがあります。
それを見た研究者たちは、こう考えました。
「恐竜は、世代を重ねながら“家族”として生きていたのかもしれない。」

足跡は、彼らがどの方向へ歩き、どのくらいの速さで進んでいたかを教えてくれます。
ひとつの足跡だけでなく、複数が並んで見つかるとき、
そこには 群れで移動していた気配 が感じられます。
もしかしたら、親が子を守りながら動いていたのかもしれません。
また、卵や巣の化石は、恐竜が 子育てをしていた ことを物語ります。
ただの巨大で荒々しい生物ではなく、仲間や家族とともに生きる姿が、そこには確かにありました。
骨は「そこにいた」という証。
けれど、足跡や巣や卵は「どのように生きていたか」を語るもの。
大地に残された痕跡を読み取ることは、恐竜と“一瞬だけ同じ時間を共有する”ことに、
少し似ているのかもしれません。
日本にも眠る恐竜の記憶
はるか遠いカナダの大地に思いを馳せてきましたが、
実は 日本にも恐竜の記憶は静かに眠っています。
その代表的な場所が、福井県勝山市にある 福井県立恐竜博物館。
化石の展示だけではなく、いまも周辺の地層では発掘が続けられており、
「恐竜が息づいていた国」として、世界から研究者が訪れるほどです。

さらに、日本では化石だけでなく 足跡化石 も見つかっています。
熊本県や長野県などの山あいで、恐竜が大地に残したわずかな痕跡が確認されているのです。
まとめ──大地が残した“生命のアルバム
恐竜たちが生きていた時代は、もう、遥かな過去のことです。
けれど、大地はその記憶を静かに抱えたまま、長い時間をかけて、私たちに示しています。
岩の中に横たわる骨も、地層に残された足あとも、かつて“ここで生きていた”という確かな証。
骨や足跡、卵の殻――それらはただの石ではありません。
形を変えた“時間”です。
大地はその記憶を静かに抱えたまま、長い時間をかけて、そっと私たちへ差し出しています。
まるで長い年月をかけて編んだ“生命のアルバム” の一ページを、そっとめくって見せてくれているかのようです。

そこには確かに“生きていた時間”が宿っています。
恐竜たちの世界は終わったのではなく、私たちの足もとに、今も静かに続いている。
そう思うだけで、少しだけ時間の流れがやさしく感じられます。

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