人類が初めて大地に立ち、二本の足で歩き始めたのはいつだったのか──。
その答えを探るカギは、アフリカ東部のエチオピアにあります。
1974年、アファール地方で発見された約320万年前の化石人骨「ルーシー」。
この小柄な女性の骨格は、私たちの祖先がすでに二足歩行をしていたことを示し、進化の物語を大きく塗り替えました。
もちろん、今回も現地に行く必要はありません。
椅子に腰掛けたまま、コーヒー片手に320万年前のエチオピアを旅してみましょう。
エチオピア──人類発祥の地と呼ばれる理由
エチオピアはアフリカ大陸の東部、「アフリカの角」と呼ばれる地域に位置する内陸国です。
国土は日本の約3倍、首都アディスアベバはアフリカ連合(AU)の本部が置かれる国際都市。
人類史的にこの地が特別なのは、アファール地方アワッシュ川下流域で数多くの化石人骨が見つかっているからです。

1974年に発見された「ルーシー」はその象徴で、この発見によりエチオピアは“人類発祥の地”として世界遺産にも登録されました。
ルーシー──320万年前からの来訪者
1974年、エチオピアのアファール地方アワッシュ川下流域で、世界を揺るがす発見がありました。
発掘チームが見つけたのは、約320万年前に生きていた小柄な女性の骨格──アウストラロピテクス・アファレンシス。
彼女は「ルーシー」と名付けられました。
その理由は発見当時キャンプで流れていたビートルズの曲 『Lucy in the Sky with Diamonds』 からです。
【ルーシーの骨格のレプリカ】
この動画はYouTubeチャンネルMichael Grobman様から共有させていただきました。ありがとうございます!
骨盤と大腿骨の形から、ルーシーはすでに二足歩行をしていたことが明らかに。
彼女の存在は、「立ち上がる」という行為が人類の進化においてどれほど大きな意味を持つのかを、私たちに教えてくれます。
なぜ人類は立ち上がったのか
ルーシーの骨盤と大腿骨が示していたのは、すでに二足歩行をしていたという事実でした。
では、なぜ私たちの祖先は四足歩行をやめ、立ち上がる道を選んだのでしょうか。
研究者たちは、いくつかの進化的メリットを挙げています。
- 両手の自由化
果物を抱えて運ぶ、石を持って投げる、のちには道具を作る──手の使い道が格段に増えました。 - 長距離移動の効率化
二足歩行はエネルギーの消費が少なく、食料や水を求めて遠くまで移動できました。 - 視野の拡大
高い位置から周囲を見渡せるため、獲物や天敵をいち早く発見できました。 - 体温調節の有利さ
直立することで日差しを受ける体表面積が減り、熱を逃がしやすくなりました。

こうして立ち上がった祖先たちは、やがて道具を使い、火を操り、言葉を話す存在へと進化していきます。
もし彼らが立ち上がらなかったら──私たちは今も限られた土地で、道具も文明も持たず、群れで暮らす霊長類だったかもしれません。
そう考えると、320万年前の一歩が、どれほど大きな意味を持っていたのかが見えてきます。
進化を切り開いた二人目のスター:アルディ
ルーシー発見から20年後の1994年、エチオピアで発掘された化石が、人類進化の物語をさらに遡らせました。
その名はアルディピテクス・ラミダス、通称「アルディ」。
生きていたのは今からおよそ440万年前──ルーシーよりも120万年以上前です。
アルディは、まだ樹上と地上の両方で生活していました。
足の親指は自由に動き、木登りに適した形状を残していましたが、同時に二足歩行の兆しも見せていました。
まるで「木の上と地上、両方のいいとこ取り」を試みていたかのようです。

この発見によって、人類の二足歩行は突然完成したのではなく、長い時間をかけて試行錯誤しながら発達していったことが明らかになりました。
その挑戦は、のちに完全な二足歩行を身につけたルーシーへとバトンを渡し、現代の私たちへとつながっていきました。
歩み出す進化の物語
440万年前の朝。
まだ木の上の暮らしを手放せないアルディは、枝から枝へと移動しながら、ふと地面に降り立ちます。
風が頬をかすめ、遠くまで見渡せる高さに気づいたその瞬間──新しい一歩が始まりました。

その小さな一歩は、やがて世代を超えて受け継がれ、320万年前のルーシーへとつながります。
我々の祖先が刻んだその足跡は、遠い未来、私たちが都市を築く道のりの最初の章となったのです。
すべては一歩から始まった
エチオピアの大地は、320万年前のルーシー、そして440万年前のアルディという二人のスターを通して、人類が立ち上がるまでの物語を静かに語りかけてくれます。
その一歩は、私たちが文明を築き、地球の隅々まで広がる未来への始まりでした。

今回の旅も、椅子に座ったままの出発でした。
けれど、その一歩で椅子の脚に小指をぶつけ、二足歩行のありがたみを痛感しました。
ちなみにエチオピアは人類史だけでなく、壮大な自然や独自の文化も持つ国です。
いつかまた、別の視点からこの魅力あふれる地を“訪れたつもり”になってみたいと思います。
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