北アイルランドの海岸に、不思議な風景があります。
海へ向かって、石の柱がずらりと並んでいるのです。
しかもその多くが、驚くほどきれいな六角形。
ここまで整っていると、思わず疑いたくなります。
「これ、本当に自然にできたんですか?」
まるで誰かが巨大な石のタイルを、几帳面に並べたようにも見えます。
実際、この場所には巨人が海を渡るために作った道という伝説まで残っています。
けれど現在では、これが溶岩が冷えてできた自然の地形だと分かっています。
とはいえ、まだ疑問が残ります。
なぜ岩は、こんなにもきれいな六角形になるのでしょうか。
もし巨人が作ったのなら、六角形の設計図でも持っていたのかもしれません。
けれど実際には、ここに並ぶ柱は溶岩が冷えてできた自然の岩です。
それでも結果はこの通り。
自然はときどき、驚くほど几帳面な仕事をするようです。
けれど実際には、これらの柱は
溶岩が冷えてできた自然の岩です。
今回は、ジャイアンツ・コーズウェーに並ぶ六角形の柱を眺めながら、
巨人の伝説と自然の科学、その両方をのぞいてみましょう。
巨人が作った道?ジャイアンツ・コーズウェーの伝説
北アイルランドの海岸に立ったつもりで、少しだけ目を閉じてみます。
波の音がして、潮風が吹いて――
そして目の前に広がるのは、石の柱がずらりと並ぶ、不思議すぎる風景です。
いや、これ。
自然って、こんなに几帳面でしたっけ。
柱はまっすぐ立ち、しかも形はほぼきれいな六角形。
バラバラどころか、むしろ「揃えにいってる感」すらあります。
ここまで整っていると、もう疑いたくなります。
「これ、誰か並べたでしょ?」
そう思った人が昔いたとしても、まったく責められません。
むしろ、かなり素直な感想です。

当時の人々も、この風景を前に「自然なのか?」と戸惑っていたのかもしれません。
ちなみにこの場所の名前、
Giant’s Causeway(ジャイアンツ・コーズウェー)は、
直訳すると「巨人の道」や「巨人の通り道」という意味です。
この名前だけでも、なんとなく納得してしまいませんか。
実際この場所には、こんな伝説が残っています。
この道を作ったのは、アイルランドの巨人フィン・マックール。
海の向こうにいるライバルと戦うため、石を積み上げて道を作った――という話です。
スケールが大きすぎて一周まわって納得しそうになりますが、
この景色を見ていると、ちょっとだけこう思ってしまうんです。
「いや…巨人のほうがまだ現実的かもしれない」
それくらい、この場所は“整いすぎている”。
自然が作ったにしては几帳面すぎるし、
人が作ったにしてはスケールがバグっている。
だからこそ人は、この景色に物語を重ねたのでしょう。
そして面白いのは――
その“巨人の仕事みたいな風景”を、あとから科学が説明しにきた、という点です。
さて、この不思議な石の柱たち。
いったい何本あって、どれくらいの規模なのでしょうか。
次は、その圧倒的なスケールをのぞいてみましょう。
海岸に並ぶ4万本の石の柱
では、さっきの場所をもう少し引いた目線で眺めてみましょう。
──といっても、現地に行かなくても大丈夫。
写真を一枚見るだけで、だいたい察しがつきます。
「……多くない?」
そうなんです。ここに並ぶ石の柱、実はおよそ4万本。
数だけでも十分インパクトがありますが、
本当にすごいのは、そのほとんどが六角形に近い形をしていることです。

しかも柱は、ただ置かれているわけではありません。
地面からにょきっと生えて、
場所によっては階段のように段差をつくりながら、海へと続いています。
もしここを歩くとしたら──
いや、歩いたつもりで想像してみると、
「足元、めちゃくちゃ歩きにくそうだな」
と同時に、
「でもちょっとテンション上がるなこれ」
という、なんとも言えない気持ちになります。
自然が作ったにしては、配置があまりにも“出来すぎている”。
かといって、人間がこれを4万本並べたと考えると、それはそれで気が遠くなります。
やっぱり一度は思ってしまうんです。
「巨人、意外とマメだった説あるな」
……いや、さすがにそれは置いておきましょう。
では、この大量の石の柱は、いったいどうやって生まれたのか。
次は、この風景の正体――
“火山が作った芸術作品”の話に進んでいきます。
実は火山が作った地形だった
さて、この“巨人の仕事疑惑”のある石の柱たちですが、
結論から言うと――犯人は巨人ではなく、火山です。
しかもやっていることは、わりとシンプル。
昔ここに流れ出した溶岩が、ゆっくり冷えて固まる。
ただ、それだけです。
……それだけ?と思いますよね。
問題は、その「冷え方」にあります。
溶岩は冷えるとき、体積が少し縮みます。
すると内部にピキッ、ピキッとひび割れが入っていく。
ここまでは、乾いた泥やコンクリートと同じです。
でも違うのは、そのスケールと精度。
溶岩は上から順番に冷えていくため、
ひび割れはだんだんと下に向かって伸びていきます。

Joseph Mischyshyn / CC BY-SA 2.0
その結果――
地面にできた割れ目が、
そのまま岩の形として“残った”のが、あの柱です。
つまりあの石の柱は、
最初から柱だったわけではなく、
ひび割れがそのまま形になったもの
なんですね。
さらに長い時間をかけて、
波や風によって周囲の柔らかい部分が削られていき、
硬く残った部分だけが、
今のような“柱の風景”として現れました。
しかもこれが、1本2本ではなく4万本。
しかし、まだ最大の謎が残っています。
なぜそのひび割れは、わざわざ六角形になるのか。
四角でも三角でもなく、なぜ六角形なのか。
ここから先は、いよいよ“自然がこっそりやっている数学”の話です。
なぜ岩は六角形になるのか
なぜひび割れは、あんなにも整った形になるのでしょうか。
実際には五角形や七角形も混ざっていますが、
全体を見ると、六角形に近い形が多く並びます。
適当に割れてもよさそうなのに、
なぜこんな傾向が生まれるのか。
理由はシンプルで、
いちばん無駄が少なく、バランスが取りやすい形になるからです。

Photo by pam fray / CC BY-SA 2.0
ひび割れは、できるだけ均等に力を逃がそうとします。
その結果、すき間なく並べて安定しやすい形――
つまり六角形に“近づいていく”のです。
同じような形は、ハチの巣にも見られます。
つまりあの風景は、偶然というより、
自然が効率を選び続けた結果、生まれた形なんですね。
次は、この「六角形」という形そのものに、もう少しだけ迫ってみましょう。
自然が作る「六角形」という形
ここまで見てくると、少し不思議な気がしてきます。
六角形という形、実はこの場所だけの特別なものではありません。
ハチの巣、雪の結晶、乾いた地面のひび割れ。
自然の中には、同じような形が何度も現れます。

スズメバチの巣に見られる六角形も、その一例です。
誰かが設計図を配っているわけでもないのに、
なぜか似た形に落ち着いていく。
その理由はシンプルで、
無理が少なく、全体として安定する形だから
です。
自然は「美しく作ろう」としているわけではありません。
ただ結果として、効率を追いかけると、
こういう整った形にたどり着いてしまう。
つまり六角形は、偶然の産物というより、
自然が選び続けた“ちょうどいい形”
なのかもしれません。
そう考えると、あの海岸の風景も、
ただの不思議な景色ではなく――
自然が“計算した結果”のようにも見えてきます。
そして最後に、もう一度あの場所を思い出してみましょう。
まとめ 巨人の伝説と自然の科学が出会う場所
北アイルランドの海岸に並ぶ、不思議な石の柱。
巨人が海を渡るために作った道――
そんな話が残るのも、無理はありません。
それくらい、この風景はどこか現実離れしています。
けれど実際には、その正体は溶岩と時間。
そして、ひび割れが選び続けた「ちょうどいい形」でした。

Chmee2 / CC BY 3.0
物語として眺めても面白く、
科学として知っても納得できる。
その両方が、同じ景色の中に重なっています。
もしこの場所に立ったなら――
きっと、しばらく言葉が出てこないと思います。
ただ目の前の景色を眺めながら、
これが自然のつくったものだという事実を、
ゆっくり受け入れていく。
そんな時間が流れるはずです。

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